COLUMN

【独自分析】ホルムズ海峡封鎖で航空運賃はどうなる? インバウンド市場への影響と、今から備えるべき3つのこと

2026.03.27

2026年2月末、米・イスラエルによるイラン攻撃を受け、ホルムズ海峡が事実上封鎖されました。通過船舶は1日120隻から5隻へ激減(日本経済新聞)。封鎖は4週目に入り、原油価格の急騰が世界経済に波及しています。

「インバウンドへの影響はあるのか?」「自治体・事業者として何を準備すべきか?」——多くの方が抱えるこの問いに対し、航空運賃の実データをもとに整理しました。

原油価格はどう動いたか

ホルムズ海峡は世界の原油輸送の約2割が通過する要衝です。封鎖前の1月、WTI原油先物は72〜75ドル/バレルで推移していましたが、封鎖直後の3月初旬に一時100ドルを突破しました(Bloomberg)。

3月25日時点では86.8ドル/バレルまで落ち着いていますが、これはイランが日本船舶の通過を認める動き(Al Jazeera)など外交努力の進展を受けたもので、依然として不安定な状態が続いています。

封鎖前と比較して、原油価格は約15〜35%上昇しています。

航空運賃への影響——「本番」は6月から

インバウンドに最も直結するのが、航空運賃と燃油サーチャージの動向です。

日系航空会社(JAL/ANA)は「猶予期間」

JAL・ANAの燃油サーチャージは、シンガポールのジェット燃料価格の2ヶ月平均を基に隔月で改定されます。現在適用中の4〜5月発券分は、封鎖前の2025年12月〜2026年1月の燃料価格($84.26/バレル)が算出基準のため、据え置きとなっています(JALプレスリリース)。

しかし、6〜7月発券分からは封鎖後の高騰した燃料価格が反映されます。一部報道では、欧米路線の燃油サーチャージだけで往復10万円を超える水準も想定されています(tabiris)。

つまり、日系航空会社の運賃への影響が本格化するまで、約2ヶ月の猶予があるということです。

海外の航空会社はすでに値上げ済み

一方、海外の航空会社はすでに動いています。

キャセイパシフィック航空は3月18日から燃油サーチャージをほぼ2倍に引き上げました。長距離路線ではHK$569からHK$1,164へ、短距離路線でもHK$142からHK$290へと急騰しています(LoyaltyLobby)。

韓国の航空各社(大韓航空、アシアナ航空、チェジュ航空、エアプサン、ティーウェイ航空など)も、3月下旬から東京路線を含む国際線の燃油サーチャージを引き上げています(Travel And Tour World)。

シンガポール航空も緊急燃油サーチャージを導入。アジア太平洋の複数航空会社が減便・運休を実施する事態となっています(TTG Asia)。

IATA(国際航空運送協会)は、航空券全体で最大9%の値上がりを見通しています(Bloomberg)。

訪日外国人数への影響——市場によって濃淡がある

直近の訪日外客数

2026年2月の訪日外客数は346.7万人で、前年同月比+6.4%、2月としては過去最高を記録しました(JNTO)。この数字は封鎖直後のタイミングであり、航空運賃の値上げが本格化する前のデータです。

一方、1月は中国からの訪日客が約6割減少し、4年ぶりのマイナス成長となりました(トラベルボイス)。こちらは日中関係の影響が主因であり、ホルムズ海峡とは別の要因ですが、複数のリスクが重なるタイミングであることは認識しておく必要があります。

市場別の影響度

すべての市場が同じように影響を受けるわけではありません。航空ルートと距離によって、影響度は大きく異なります。

影響が大きい市場

  • 欧州:中東経由便(エミレーツ、カタール航空など)が主要ルート。空域制限で迂回を余儀なくされ、所要時間増加・コスト上昇が直撃。長距離サーチャージの急騰も重なる
  • 中東:地政学リスクの直接的な影響圏。渡航自体が困難に

影響が中程度の市場

  • 香港:キャセイパシフィックのサーチャージ2倍が直接影響
  • 北米:太平洋直行便は中東を経由しないが、原油高による運賃全体の底上げ
  • 東南アジア:LCC利用者が多く、コスト感度が高い層が影響を受けやすい

影響が限定的な市場

  • 韓国:近距離のためサーチャージの絶対額が小さい。サーチャージ引き上げ済みだが、片道の増額は数千円程度
  • 台湾:同様に近距離で影響が限定的。2月は単月過去最多を記録
  • 中国:ホルムズの影響より日中関係の要因が支配的

訪日客の約65%を占めるアジア近距離市場は、ホルムズの影響が相対的に小さいという点は、重要な判断材料です。

中東経由の欧州ルート——もうひとつの懸念

見落とされがちなのが、フライトルートの問題です。

日本と欧州を結ぶ路線の多くは、ドバイやドーハをハブとする中東経由便が大きなシェアを持っています。ホルムズ海峡周辺の空域制限により、これらの便は迂回ルートを取らざるを得ず、飛行時間の増加と燃料コストの上昇を招いています。

欧州からの訪日客は全体の約8%ですが、客単価が高く、地方周遊の傾向が強いため、地方のインバウンド戦略において重要な市場です。この市場の減速は、大都市よりも地方にとってインパクトが大きくなる可能性があります。

今から備えるべき3つのこと

影響が本格化するまでに約2ヶ月の猶予があります。この期間をどう使うかが、回復フェーズでの差を生みます。

1. アジア近距離市場への重点シフト

影響が限定的な韓国・台湾・東南アジアからの訪日客は、今後も堅調に推移する可能性が高い市場です。多言語での情報発信やSNS施策を、これらの市場に優先的に振り向けることが有効です。

特に台湾は2月に単月過去最多を記録しており、成長余地が大きい市場です。

2. 「安心して日本に来られる」という情報発信

地政学リスクが高まると、「アジア全体が危険なのでは」という漠然とした不安を持つ旅行者が一定数現れます。

「日本への渡航は安全であること」「中東を経由しないフライトルートがあること」「燃油サーチャージを抑える予約方法」といった実用的な情報を発信することは、旅行者の不安を払拭し、訪日意欲の維持につながります。

3. 回復期を見据えたコンテンツ整備

過去の危機(2020年のコロナ禍、2022年の円安ショック)が示しているのは、インバウンド市場は必ず回復するということです。

減速期にコンテンツの整備や多言語対応を進めておくことで、回復時に「選ばれる地域」になれるかどうかが決まります。「今は動けないから何もしない」のではなく、「今だからこそ準備する」という姿勢が、結果として回復スピードの差になります。

まとめ

ホルムズ海峡封鎖の影響は、航空運賃の上昇を通じてインバウンド市場にじわじわと波及しつつあります。日系航空会社の燃油サーチャージへの本格的な反映は6〜7月発券分からとなりますが、海外の航空会社はすでにサーチャージの大幅引き上げに動いています。

ただし、すべての市場が等しく影響を受けるわけではありません。アジア近距離市場は相対的に影響が小さく、訪日客の過半数を占めるこの市場の動向が、今後のインバウンド全体の方向性を左右します。

不確実性が高い今だからこそ、データに基づいた冷静な分析と、先手を打った準備が求められています。

私たちMATCHAは、インバウンドに関わるすべての方々と共に、この変化を乗り越えていきたいと考えています。


参考情報

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