地方こそデジタルノマドの拠点になり得るーColive Fukuokaで見えてきた可能性|福岡市
2024.11.08
column
福岡市が主催し、株式会社遊行が企画運営を行う「Colive Fukuoka 2024」は、2024年10月1日(火)から31日(木)までの1カ月間、国内外からデジタルノマドを福岡市に誘致するプログラムとして開催され、MATCHAはメディアパートナーとして参加しました。今年で2回目となる本イベントには、昨年の約5倍にあたる200名近くのデジタルノマドが約40カ国から福岡に集まり、全て英語での開催となりました。リピーターも多く、日本再訪のきっかけとなっていることがうかがえます。
今回は、福岡市でデジタルノマド誘致の担当をされている横山裕一(福岡市 経済観光文化局 観光コンベンション部観光産業課 観光産業係長)さんにお話をお伺いしました。
そもそもデジタルノマドとは?
デジタルノマドとは、インターネットを活用し、場所にとらわれずに仕事をする新しいライフスタイルを指します。近年、この市場は急速に拡大しており、米旅行情報サイト「A Brother Abroad」の2022年の調査によると、デジタルノマドの人数は世界全体で約3,500万人に上るとされています。その多くが年収1,000万円以上であり、その人たちがもたらす経済効果の規模は約100兆円を超えると見込まれています。さらに、2035年にはこのデジタルノマドの数が10億人に達するとの予測もあります。
地方都市である福岡市がデジタルノマドに注力する背景
——— デジタルノマドという新しい市場に対して、福岡市が一早く受け入れ体制を整備していることが凄いと感じています。この市場に注力した理由は何ですか?
(横山さん※以下敬称略)福岡市は2000年以上にわたる外交の歴史の中で発展し、近年ではスタートアップやデジタル分野の企業誘致にも積極的に取り組んでおり、デジタルノマドとは非常に相性が良いと考えています。訪日客全体に占める韓国からの来訪者が特に多い中、福岡市として、まだ来訪していない新たな市場へのプロモーションに注力すべく、地域との親和性が高いデジタルノマドの受け入れを進めていくことにしました。
将来的には年間を通じて多くのデジタルノマドが福岡を訪れる環境を目指していますが、その第一歩として、「FUKUOKA」の認知度を高め、実際に足を運んでいただく機会となるシンボリックなイベントを行おうと、今回の「Colive Fukuoka 2024」の開催に至りました。
昨年と比較してデジタルノマドの参加者数が40名から200名に増加し、新たにスポンサー企業が参画してくださったことから、企業もデジタルノマド市場に可能性を感じているように思います。企業の方々の力も借りて、我々自治体だけでは達成できなかった未来が拓けてきていると強く感じています。
デジタルノマドは今後、修学旅行のような誘客ターゲットの1ジャンルに
——— なぜ福岡市はデジタルノマドに可能性を感じているのですか?
(横山)観光文脈でいうと、デジタルノマドは、修学旅行やインセンティブツアー、ラグジュアリートラベルといった様々ある旅行ジャンルの1つである、という考え方をすると分かりやすいかなと思っています。
日本全体でも「量から質へ」と観光の転換が求められている中、デジタルノマドはこの方向性に合致するターゲットといえます。比較的高所得者層が多く、長期滞在するという点に加え、観光地を目指して来るわけではないため、オーバーツーリズムを避けたい地域にとって良いターゲットになり得ると感じています。これはデジタルノマドに限った話ではないですが、地域としては、誰でも構わず誘致をするのではなく、ターゲットをしっかりと決めて取り組むことが持続可能な観光になると考えています。
デジタルノマドは、観光で終わらず、地域の方々と触れ合いながら関係性を築き、地域と深く関わることで「関係人口」となり、ビジネスが生まれる可能性を持っています。この点が一般的な観光客とは大きく異なるところであり、日本が人口減少に直面する中で、非常に重要だと考えています。
福岡市としては、デジタルノマドの人たちが、ここでの滞在環境や仕事環境の体験を通じて「福岡を拠点にアジアでビジネスを展開するチャンスがある」と感じ、創業に繋がるような流れに繋げていくことを、中長期的な目標として考えています。
コミュニティマネージャーのような存在が再来訪のきっかけに
——— デジタルノマドは、他の観光客と違う雰囲気を感じますか?
(横山)Colive Fukuokaのイベント開催中、ピクニック形式で行われたランチには50名以上が集まり、参加者同士が自然に交流を深める様子が見られました。日本の名刺交換の雰囲気とは異なり、その場にいる全員が一つのコミュニティに属し、仲間としてつながっているような一体感がありました。
デジタルノマドの人たちに「福岡に来たら出会える人々がいる」と思ってもらえるように、デジタルノマドを迎え入れ、つながれる機会をつくるコミュニティマネージャーのような役割の人がいることで、数ある滞在先の中から福岡を選んでいただけるきっかけになると思っています。そういったコミュニティ機能をしっかりと作っていくことが大事だと思っています。
実際に去年開催したイベントのグループSNSは、発足から今年のイベントまでずっとアクティブに動いていて、そういったコアなメンバーが2次的に福岡や日本の魅力を広げてくれると期待しています。
——— コミュニティマネージャーは、どんな人が理想でしょうか?
(横山)特別な地位やビジネスに直結する立場の人でなくて良いと思っています。地域の人々を紹介したり、日本や福岡について親しみを持って教えられる、友人のように関係を築ける人を、デジタルノマドも求めているのではないでしょうか。
地方でも可能性のあるデジタルノマド誘致
——— デジタルノマドを呼び込むにあたって大事なことは何だと思いますか?
(横山)コミュニティとコリビングが滞在地を決定する大きな要因だと思います。コリビングとは簡単に言うと共に仕事をし宿泊できる場所のこと。必ずしも同一施設である必要はないのですが、つまり働く場所と住む場所が機能的に、またコスト的に魅力的かということです。この2つがあれば、たとえ交通アクセスが不便であっても、デジタルノマドが世界中から集まるということを、先日視察に訪れた「Bansko Nomad Fest」で実感しました。Banskoは、ブルガリアの首都ソフィアから車で160kmの距離に位置しており、バスやタクシーを乗り継いでようやく辿り着く場所でした。しかし、そこには世界中から約800名のデジタルノマドが3週間にわたり集まり、カンファレンスやネットワーキングを楽しんでいました。
今回の「Colive Fukuoka」の滞在中も、福岡をハブにしながら、別府に2泊3日、五島に3泊4日、長崎に1泊2日といった複数の場所への短期の旅行をデジタルノマドたちも楽しんでいました。彼らも、都会的な福岡と地域という2つの違った雰囲気を楽しめて、長期的な滞在をより充実したものにしていました。
ターゲットに合わせた観光コンテンツの提供と内容
——— デジタルノマドを受け入れるにあたり、多くのコンテンツを整えられたと思いますが、どのような工夫をされましたか?
(横山)市や観光庁の事業では、行程がすべて決まっていて、体験してもらった後にフィードバックを得る形式が多いと思います。しかし、デジタルノマドに対してはこの方法ではうまくいかず、彼らは自分で決定する権利を重視しているため、選択肢を提供することが重要です。多様なコンテンツを組み合わせることの難しさもあり、時には諦めも必要と感じる部分もありますが、現場で気軽に体験できるようにサービスを揃えていこうと取り組んでいます。「注文の不便や待ち時間をなくそう」というおもてなしの心で、来店前にメニューを指定してもらうサービスを用意したのですが、その時の気分でメニューを選びたい方々たちにとっては、少し待ったとしても、来店したときに注文をした方が満足度が高かった、ということがありました。本当のおもてなしとは何か、改めて考えさせられますね。
かつては地域を訪れる人が物見遊山的な観光となり、地域に十分なお金が落ちないこともありましたが、今回のイベントでは多くの方々にご協力いただき、より多くの観光事業者の収益に繋がるコンテンツとして提供できている部分が多くあります。
今後目指しているデジタルノマドとつくる世界
——— 福岡市として、デジタルノマド受け入れを通じて描いている世界は、どのようなものですか?
イベント2年目となった今年は、民間スポンサーが多くついてくれて、規模も内容もより充実したものになったと感じています。これをより大きなムーブメントへと飛躍させていくためにも、今後も継続的にイベント開催を行っていければと考えています。
また、韓国や台湾などアジアの他国と、それぞれのデジタルノマドコミュニティ間の連携を強化し、相互に送客し合えるような関係性を構築できればと考えています。
福岡市はデジタルノマドも含めた外国人が集まる国際都市を目指しています。ターゲットとする層の人たちが、「福岡には自分が求めるものが揃っている」と感じてもらえるような環境を整備していきたいと思っています。2000年以上にわたり海外と交流しながら発展してきたこの地域だからこそ、デジタルノマドという新しい来訪者とともに、新たな世界観を創造できると信じています。
今回、Coilve Fukuokaを通じて、デジタルノマドが大切にする価値観やニーズをより深く理解することができました。彼らは観光だけでなく、人とのつながりやその土地での暮らしを楽しむことを重視しており、日本各地で誘客できる可能性が高いと感じています。デジタルノマド市場は今後も拡大していくと考えられ、日本の地域の活性化にもつながる期待が高まっています。
インタビューに応じてくださった横山さん、ありがとうございました!
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